ここは宮崎。降り注ぐような夏の陽射しを浴びて、たわわに実ったマンゴーが金色に輝いている。そのひとつが、ぽつりと音を立てて完熟の証として枝から離れた。農家の青年、健太は落ちたマンゴーをそっと拾い上げる。

「今日も最高の出来だ」

しかし、彼の表情は晴れやかではなかった。この完熟マンゴーは、たった5日間しか日持ちがしない。海外からの問い合わせは増えているが、高価な飛行機でしか送ることができないのだ。輸送コストが、夢を阻む高い壁となっていた。ケンタは、この素晴らしい味を世界中に届けたいと強く願っていた。

そんなある日、彼は一つの記事を目にする。それは、遠く離れた喜界島でのDENBAという技術を使ったマンゴーの鮮度保持に関するものだった。記事には「20日間も鮮度が保たれ、船での輸送が可能になり、コストを90％削減できる」と書かれていた。健太の心臓が高鳴る。これだ。この技術があれば、宮崎の完熟マンゴーは、もっと遠くへ旅立てる。

健太はいてもたってもいられず、市役所へ向かった。窓口に座るベテラン職員の田中は、何人もの若者の夢が現実の壁に砕かれるのを見てきた。彼の目は、希望に満ちた健太の目に、懐かしさと、少しの諦めが混じった色を宿していた。

「DENBA、ですか…。面白い話ですが、前例がないものでねぇ」

田中はそう言って、健太の話を軽くあしらう。しかし健太は諦めない。彼は宮崎の未来、そしてこの完熟マンゴーが持つ無限の可能性を熱く語った。

「宮崎の発展は、俺たち農家にかかってるんです！この技術があれば、世界中の人が宮崎のマンゴーを味わえる。そうすれば、もっとたくさんの人が宮崎に興味を持ってくれるはずです！」

その言葉は、田中の心を揺さぶった。かつて、自分も同じように、この街の未来を夢見ていたことを思い出す。彼の中に、くすぶっていた情熱の火が再び灯り始めた。

「…わかった。一度、この話を上に持っていってみよう」

それは小さな一歩だった。しかし、宮崎の未来を変える、最初の一歩になるかもしれない。夕陽が地平線に沈み、空が黄金色に染まる中、健太は静かに故郷のマンゴー畑を見つめていた。彼の胸には、希望という名の新たなマンゴーが実り始めていた。